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三重県で錯誤捕獲され、滋賀県で放逐されたツキノワグマについての見解

 今回の件で、今なお現場で対応に当たっておられる担当者ならびに鳥獣行政に携わっておられる方々のご努力に敬意を表します。また、今回放逐されたツキノワグマ(以下、クマと省略)との因果関係は不明なものの滋賀県多賀町でクマに襲われ負傷された女性に対し、心よりお見舞い申し上げます。
 以下に、日本クマネットワーク(JBN)としての見解をまとめました。


○ 三重県いなべ市で捕獲したクマを滋賀県多賀町で放逐したことについて
 三重県発表によると、放獣場所は県境に近い滋賀県側となっています。放獣場所の探索に苦慮されたようですが、結果として三重県いなべ市で捕獲したクマを滋賀県多賀町で放逐したことは事実です。予め了解を取り付けることなく他県(市町)に放獣したことは反省すべき点です。放獣場所の確保は常にクマ担当者が頭を悩ます問題ではありますが、放獣する際には事前に綿密な方針と計画を立てて適切な場所に放獣することが求められます。今後は、単独県ではなく、クマ個体群の生息地に関わる複数の県が、広域連携をもってクマ保護管理計画を立てる必要があります。その計画に沿って、ふだんから近接する都府県および市町村はクマの対応について共通認識を持っておくことが肝心です。
○ クマによる人身被害への対応について
 滋賀県多賀町で女性がクマに襲われた事故の重大さを十分に認識し、地元住民の安全・安心を第一義的に考えることは言うまでもありません。そのためには、放逐グマを含めて周辺域で再び人里に現れて問題行動をとるクマについては、駆除の対象とすることが第一の選択肢と考えます。適切に駆除を行うには、地元猟友会の方々のご協力を仰ぎ、鳥獣行政と一体となった対応が必要です。一方、これまで滋賀県多賀町ではクマの目撃が少なかったことから、クマについての対応がほとんどなされていませんでした。今後、周辺域でのクマ生息状況の把握とクマに対する安全対策の普及啓発が図られることが望まれます。
○ 放逐グマの扱いについて
 現時点では放逐個体と加害個体の関係は不明です。その証拠がない以上、積極的な(山中に分け入っての)捕殺は不要と考えます。見通しの効かない山中に入ってクマを追跡することはたいへん危険であり、二次災害を引き起こす可能性もあります。当面は、放逐グマに発信機が取り付けられていますので、このクマの行動追跡を継続し、人里に近づき問題行動を起こさないかどうかを監視するのが賢明でしょう。人に接近したりゴミを荒らしたり問題行動が見られるようであれば、速やかに捕殺する手段を講じなければなりません。問題行動がなければ、一定の期間(およそ1ヶ月程度)重点的な追跡を継続した後は調査を終了して良いと考えます(定期的には人里への接近がないかを確認する)。
○ 遺伝子解析による加害個体の特定
 放逐個体と加害個体との関係について明らかにすることは、今後のクマ保護管理を考える上でとても重要ですので、ぜひ加害個体特定のための遺伝子解析を行っていただきたいと考えます。そのためのDNA材料は放逐個体および加害個体の両方から既に得られているようですので、関係者間で調整していただき、早急に専門家による遺伝子解析が進められることを望みます。結果の公表については県の判断に委ねることになりますが、今後の方策に活かされることを強く願います。また、放逐グマが捕殺され、それが加害個体であると判明した場合、その年齢や身体の傷病の状態、栄養状態などを調べ、今後の捕獲個体の処置のあり方を検討するための資料としてください。
○ 今後に向けて(三重県に限らず全国的な問題として)
 今回クマが錯誤捕獲された三重県いなべ市は、いわゆる紀伊半島個体群(環境省レッドリストにより絶滅のおそれのある地域個体群に指定)の生息地からは離れた場所であり、これまでほとんどクマの生息が確認されていなかった地域であります。近年、全国的にクマの分布は確実に拡大しており(日本クマネットワーク, 2014)、これまでクマが生息していなかった地域においても分布拡大を予測し、出没防止や出没時の対応に関する方針・体制を整備するべきです。クマの生息域は複数県にまたがりますので、広域連携によるクマ保護管理計画の立案が必須であります。とくにクマによる人身被害の軽減は喫緊の課題であり、国をあげて早急に取り組む必要性をわれわれは強調しています(日本クマネットワーク, 2015)。国・都道府県および市町村の役割分担を明確にし、人とクマの共存のためのしくみ作り(管理計画策定と人材配置)と管理の実践がさらに進展することを切に願います。
【引用文献】
・ 日本クマネットワーク(2014)ツキノワグマおよびヒグマの分布域拡縮の現況把握と軋轢抑止および危機個体群回復のための支援事業.
(https://www.japanbear.org/cms/pdf/2014jbnhoukokusho.pdf)
・ 日本クマネットワーク(2015)2014年ツキノワグマ大量出没の総括と展望〜クマによる人身事故0をめざして〜抄録集.
(https://www.japanbear.org/cms/pdf/2015JBNandWWF_shinpo.pdf)
2015年6月9日
日本クマネットワーク代表 坪田敏男(北海道大学大学院獣医学研究科)

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