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Q&A:「ドングリまき」に関する弊会の考え方

ここ数年、他団体が行っているドングリまき(野生クマ類の保護を目的として各地で集めたドングリを山奥に蒔く活動)に関連した問い合わせを受けることが多くなりました。ドングリまきに関する弊会の見解は、ホームページにて2012年12月に公開しておりますが、よくある質問について改めてまとめましたので、お問い合わせ頂く前にご一読頂けましたら幸いです。

 

Q:クマが人里に出てくる理由について、ブナの凶作、ナラ枯れなどによるエサ不足、里山の荒廃、人への警戒心の低下、クマの個体数増加など、様々な理由が挙げられていますが、JBNとしてどのように考えていますか?

 

A:各地で発生してきた「クマ類の人里への出没」の理由は、単一の理由ではなく、複数の理由が、複合的に作用していると考えています。上記の理由の多くが、「クマ類の人里への出没」に関係していると考えています。ただ、単に「クマ類の人里への出没」と言っても、現象が発生する季節や地域の違いにより、理由となりうる各要因の中でも、「クマ類の人里への出没」への影響の大きさは異なると考えられます。そのため、全国各地で、春から秋までにわたって発生する「クマ類の人里への出没」の理由を、画一的に挙げることは難しいと考えます。

 

Q:2012年12月に公表されているJBNの「ツキノワグマのために各地で集めたドングリを山奥に蒔く活動に関する見解」のなかで、ドングリ運びがもたらすリスクについて「交雑、病気の持ち込みなどによる地域固有の生態系への悪影響」「ブナ科の木の世代交代への悪影響」「ドングリを食物とする他の野生動物への悪影響」「人間由来の食物の味を学習させる」の4点が挙げられています。もし、十分な配慮(短期的な取り組みとしてブナ類の凶作年のみ限定的に行う、使用するドングリは林業種苗法の規定外かつ固有遺伝子がないとされる種に限定する、運ぶ場所は人工林や二次林に限定し、原生林には設置しない、など)を施した上でドングリ運びを実施しても、同様のリスクが存在するのでしょうか?

 

A:
1)「交雑、病気の持ち込みなどによる地域固有の生態系への悪影響」について
ドングリ自体が発芽しなかったとしても、ドングリに付着していた昆虫や病原菌など目に見えないような生物が、その地域にもともといた生物にとっての新たな害虫・病害、または競争相手となることで、その地域の生態系に影響を与える可能性は、上記の条件では確保されないと考えます。例えば、ドングリの中にいる虫(シギゾウムシの仲間)への遺伝的攪乱の可能性があります。スダジイとシイシギゾウムシの遺伝的分化の関係を調べた研究では、種内の調査地点間の遺伝的分化パターンがほぼ一致していることが明らかになりました。種内の地域間での遺伝子攪乱等を防ぐ上でも,遺伝的境界を超えた苗木の移動は控えるべきとの報告があります(※1)。
ドングリが発芽する可能性がある場合、地域外から持ち込むことで、その地域の生態系への影響や、遺伝的攪乱の可能性が考えられます。林業種苗法に規定のない広葉樹については、遺伝的攪乱の危険性を避けるため、森林総合研究所が「広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン」をまとめています(※2)。また、人の手が入っている地域(開発地や都市緑地など)の整備工事の際にも、地域に由来する在来植物の使用が求められるようになっています(※3、※4)。

 

※1.青木 京子, 村上 哲明(2013)照葉樹林の遺伝的多様性と分布変遷 :植食性昆虫の分子情報を利用して. 地球環境 Vol.18 No.2 137-143.

 

※2.森林総合研究所(2011)広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン. 第2期中期計画成果20 (安全・安心-11)

 

※3.日本緑化工学会(2019)生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言.日緑工誌,J. Jpn. Soc. Reveget. Tech., 44(4), 622―628,(2019)

 

※4.一般社団法人生物多様性保全協会(平成28年)地域性在来植物選定ガイドライン

 

2)「ブナ科の木の世代交代への悪影響」について
凶作年に実施することは、本来ドングリ不足で減少するはずであったドングリ類の捕食者の減少を軽減することに繋がり、翌年の樹木の繁殖がうまくいかない可能性は残ると考えます。

 

3)「ドングリを食物とする他の野生動物への悪影響」について
人工林・二次林であっても、ツキノワグマ以外の多くのドングリを食べる野生動物や、それらの動物と食物連鎖でつながる動物は生息しています。そのため、上記の条件では、ツキノワグマ以外の多くの野生動物がドングリを食べる可能性は排除されていないと考えます。

 

4)「人間由来の食物の味を学習させる」について
2012年の見解では銀杏、リンゴ、カキを想定したリスクとして挙げ、ドングリは想定していません。

 

Q:ドングリを運ぶことは、クマが人里に現れるのを防ぐ上で効果があるのでしょうか?

 

A:まず,昨今のクマの人里への出没の機序を考えたとき,食物不足はひとつの要因ではありますが,すべてではありません。そのため,仮にドングリ運びに効果があったとしてもクマの出没抑制は限定的と考えます。また,その効果の測定は丁寧に行う必要がありますが,これまで国内で関連する先行研究はありません。クマ管理に投資できる限られた予算と労力を考えれば,ゾーニングやその実現のための環境整備が優先されるべきと考えています。

 

Q:海外の研究論文では、クマに対する人里から離れた場所での餌付けの効果について様々な報告がなされており、賛否両論があるようです。過去にクマに対する給餌を行った科学的研究として、国内外の調査論文などはありますか?

 

A:国内では,群馬県の林業試験場がクマ剥ぎ被害の抑制に給餌実験を試みましたが,高温高湿のため餌がかびるなどしたため,クマの訪問がなく失敗に終わっています。また,クマ以外の動物が誘引されたという報告があります。そのほかの科学的手法に基づく国内事例はありません。

 

  • 坂庭浩之, 姉崎智子, 中山寛之 (2010) 群馬県におけるツキノワグマ期間限定給餌事業とその課題 (速報2009). 群馬県立自然博物館研究報告 14: 103-110
  • 姉崎智子, 坂庭浩之, 中山寛之 (2016) 林業被害防止のために設置した給餌装置がツキノワグマやそのほかの動物に与える影響. 群馬県立自然史博物館研究報告 (20): 83-188

 

海外では,例えば以下があります。

  • Partridge ST, DL Nolte, GJ Ziegltrum, CT Robbins (2001) Impacts of supplemental feeding on the nutritional ecology of black bears. Journal of Wildlife Management 65: 191–199
  • Fersterer P, Nolte DL, Ziegltrum GJ, Gossow HG (2001) Effect of Feeding stations on the home ranges of American black bears in Western Washington. Ursus 12: 51–54
  • Manning JL, JL Baltzer (2011) Impacts of black bear baiting on Acadian forest dynamics: An indirect edge effect? Forest Ecology and Management 262: 838–844.
  • Kavčič I, Adamič M, Kaczensky P, Krofel1 M, Jerina1 K (2013) Supplemental feeding with carrion is not reducing brown bear depredations on sheep in Slovenia. Ursus 24: 111–119.
  • Kavčič I, Adamič M, Kaczensky P, Krofel1 M, Jerina1 K (2015). Fast food bears: brown bear diet in a human-dominated landscape with intensive supplemental feeding. Wildlife Biology 21: 1–8
  • Nolte DL, TJ Veenendaal, GJ Ziegltrum, P Fersterer (2000) Bear behavior in the vicinity of supplemental feeding stations in western Washington. West. Black Bear Workshop 7: 106-111

 

いずれも,給餌を積極的に支持する結果ではありません。

 

Q:2020年3月に公表されている報告書「四国のツキノワグマを守ろう! ― 50年後に100頭プロジェクト ―」のなかで、生態系の回復に向けた短期的な取り組みとして「給餌」を検討すると記載されています。JBNでは四国のツキノワグマへの給餌を実施する方向で動き出しているのですか?

 

A:現時点では案の提示に留まっており,実現に向けた具体的な動きはありません。現在四国のクマの保全は,ようやく広域保護指針が示された段階で,アクションプランの策定には至っていません。環境省,林野庁,関係自治体の足並みが揃わないと実現は難しいでしょう。
給餌場所の選定は,剣山主稜線周辺の生息核心地以外のエリアにも,複数の安定的な生息地を確保することを主眼として検討しました。国内で前例のないことですので,ゴビヒグマでの給餌プログラムなどを参考に,給餌の影響についても責任をもって対応できる公的な機関が、モニタリングをしながら進めていくことになるでしょう。ただし, JBNは施策を決定できる立場にはありませんので,その点が解決できないと先には進めません。

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